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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)30号 判決 1970年6月25日

原告

タイルカウンシル・オブ・アメリカ・インコーポレイテッド

(ニューヨーク)

代理人弁理士

新実健郎

新実芳太郎

被告

特許庁長官

荒玉義人

指定代理人

仙田実

外一名

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を三月とする。

事実<省略>

理由

一  (争いのない事実)<略>

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二  当事者間に争いのない本願発明の要旨及び引用例の記載内容に<書証>を参酌考量すると、本願発明と引用例記載のものとは、その構成において、①前者がタイル片をセラミック製としているに対し後者はそれがゴム製としている点及び②前者が結合用グラウト格子部をエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニール樹脂又は水硬セメントで構成しているのに対し、後者はそれがゴム層で構成されている点の二点において相違し、その作用効果において、各タイル単片及び接着剤の相違から生ずる差異が見られるほか、他の構成及び作用効果において、全く一致するものである事実を認定しうべく、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。しかして、セラミックタイル及び本願発明におけるエポキシ樹脂その他の接着剤が、いずれも本願出願前一般に使用されていたものであることは、原告の認めて争わないところであるから、以上認定の諸事実を総合すると、前認定の本願発明と引用例との構成及び作用効果上の相違は、当事者の容易に想到しうるところというを相当とし、したがつて、本願発明は本件審決認定のとおり、引用例から当業者の容易に発明をすることができる程度のものというべく、これを左右するに足る適確な証拠はない。

原告は、両者の相違点に関し、本願発明は支持部材なしで完成品であるセラミックタイルパネルのプレハブ製品であるに対し、引用例記載のものはゴムタイル、ゴム層及び支持部材(床面)の三構成要素からなる永久的に据えつけられた構造体であり、これに伴い、その奏する作用効果においても大きい差異がある旨主張するが、右主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、引用例の公報の図面及びその略解、実用新案の性質、作用及び効果の要領、登録請求の範囲の各項の記載によれば、引用例記載のものは、多数のゴムタイル単片とこれを連接するゴム層とからなり、全体を伸縮性に富む一枚一体的のものとしたものであることを認めうべく、これを左右するに足る証拠はない。原告は、引用例のものは、そのほかに、床面も構成要件とするものである旨主張し、引用例の記載中にタイル単片を布設する対象物としての床面が登録請求の範囲及び図面に記載ないしは図示されていないことを自認しつつ、それはゴム単片を床面に布設すること自体は、考案を要することでもないので省略されたにすぎない旨抗争するが、このような主張は、引用例公報の記載(図示を含めて)を余りにも無視する議論というべく、もとより採用しうべき限りではない(なお、原告は、右公報中の「寒暑際弾性ニ富ム護謨層2ノタメニ自由ニ伸縮融通シテ」という作用効果は、タイルを床面に布設することによつて始めて得られるものである旨主張するが右記載からそのように断定しえないことは、右記載自体に徴し明らかである)。

しかして、右認定の事実によれば、引用例記載のものも、本願発明と同じく、支持部材なしで完成品であるタイルパネルのプレハブ製品の一種であるということができるから、本願発明と引用例記載のものとは、支持部材(裏打ち材)なしで完成品であるプレハブ製品であるかどうかの点においては差異はなく、したがつて、また、本願発明がプレハブ製品であることに伴い生ずる原告主張の布設コストその他に関する作用効果は、特段の事情の認むべきもののない本件においては、引用例のものにおいても、また、これを期待しうるものといわざるをえない。

原告は、引用例のゴムタイル単片は、比較的大きい寸法のものであり、本願発明のものが寸法の小さいものである点において、両者は異質のものであり、このような異質のものに関する引用例記載の技術から、小さいセラミック単片を裏打ち材なしで連結してプレハブ製品としてのセラミックタイルを作ること及びそれに適したグラウト材を選択することは、当業者の予期しえないところである旨主張するが、引用例のゴムタイル単片が寸法の大きいものであると解すべき明確な証拠資料はなく、かえつて、引用例においては、ゴムタイル単片を多数布設して一枚一体的のものとする旨の前掲引用例の記載に徴すれば、そのゴムタイル単片の寸法は常に大きいものと限らないことが推測できるから、引用例のゴムタイル単片の寸法が大きいものとする原告の主張及びこれを前提とする前記主張は、理由がないものといわざるをえない。

(むすび)

三  以上詳細説示したとおりであるから、本願発明が、その構成及び作用効果において、本件審決が認定した以外の点においても引用例と相違することを看過誤認した点において違法であることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する<後略>。

(服部高顕 三宅正雄 奈良次郎)

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